趣味で通っている空手道場で昇段連続組手試験が実施された。
昇段連続組手とは、複数人の相手と次々に組手を行うものである。
いわゆるフルコンタクト(直接打撃制)のルールのため、最後はボロボロになる過酷な試験だ。
たまたま自分が入門の切っ掛けを作った後輩がその試験を受けることになり、「縁のある先輩だから」ということで、私が連続組手10人の最後の相手(対手)に指名をされた。
名誉なことだが、受ける私の心境は複雑だ。
後輩には最後まで倒れずにこの試練をクリアしてほしいという気持ちもあるが、反面、相手が組手の途中で闘争心が途切れ、所謂「心が折れた」状態になれば、先輩として容赦なく倒さねばならない義務がある。
いよいよ、その後輩の連続組手が開始された。
対手としての順番を待ちながら後輩の一人目との組手を凝視する。
その後輩の姿が我々の日々のコンサルテーションの場面とオーバーラップしてきた。
弊社でやっているコンサルテーションは、組織の表面に出ている問題を解決するようなものは少ない。
現状をビジョンに結びつけるための構造的要因を掘り下げ、そのまた奥にある企業風土や組織パラダイムまで切り込んでいく。
組織の「根っ子の問題」まで切り込むのだから痛みも伴う。
既存の価値観との衝突も起こる。
パンドラの箱が空いてしまうことだってある。
そうした痛みを乗り越えながら問題を掘り下げ、ビジョンを明確化し、解決策を模索するのだ。
もちろん寸止めは許されない。
本質的な解決策を打つために、あくまでもフルコンタクトで問題に対峙していく。
組織の根っ子の問題と言うのは、論理性だけでは割り切れないものもある。
もちろん意識の問題だけでも割り切れない。
「何故、この現状が変えられないのか」
「その現状の根底にはどのような構造的要因があるのか」
「その構造的要因を何故今まで変えられなかったのか」
正に連続組手のように、次々に根深い問題が掘り起こされ、それに対しての葛藤が繰り返される。
万一我々が「心が折れた」状態になれば、その瞬間に組織変革コンサルテーションは失敗するだろう。
しかし、そんな緊張感の中だからこそ、終わった後の達成感はとてつもなく大きいのだ。
つい先日も、あるコンサルテーションが成功した瞬間に、クライアントの担当者と思わず硬い握手を交わした。
この達成感を味わいたくて、我々はまた葛藤の中に飛び込んでいくのだ。
ふと現実に戻ると、昇段連続組手ではいよいよ自分の番が回ってきた。
向かい合った後輩は、肩を大きく上下させ、体力も精神力も既にレッドゾーンを超えているのが見て取れる。
それでも、自分は開始の合図とともに容赦なく攻撃を繰り出す。
「心が折れないでくれ!」と祈りながらも、手は休めない。
終了の合図とともに歓声が沸きあがり、後輩は無事、師範より昇段の認可を得た。
泣き笑いするその顔は、本当の達成感を得たものだけが許される表情だった。
