「会社法務A2Z」2007年9月 Vol.1-4 掲載
会社法務A2Z 2007年9月号に、弊社コンサルタント平尾貴治のインタビュー記事が掲載されました。株式会社コンサルティングファーム山口 毅代表取締役によるインタビューです。
【今月のひと】平尾貴治さん
会社員時代の苦い経験を活かし、3号業務を中心とする社会保険労務士として、また組織改革コンサルタントとして活躍する平尾さんに、お話を聞きました。
2000年の夏、百貨店「そごう」は経営破たんに至りました。
その日、社員であった平尾貴治さんは、激動の一日を終えた深夜のカプセルホテルのテレビで、混乱する店舗のニュース映像を見ながら「まるで映画のようだ」と思ったそうです。あまりに混乱が大きいと、かえって現実味が薄れるものだと当時を振り返ります。
バブル経済の興隆と破裂ジェットコースターの18年
現在は開業社会保険労務士として、また組織変革コンサルタントとして活躍中の平尾さんが、そごうに入社した1983年頃は、流通業界がドラスチックに変革していました。当時は全国に数店舗しかない地方百貨店の一つであったそごうは「地域一番店」と「巨艦主義」の二つの戦略が当たり、新店舗を急速に増やしていきました。
そして、遂に百貨店の売上トップまで昇り詰めることになります。
当然のことながら社員には、会社の成長スピードに合わせた形で責任ある仕事が任されます。終電での帰宅が続く毎日も苦にならないほど社員のモチベーションも上がっており、まさに「行け行けドンドン」の時代でした。
「みんな『やるしかない』を口癖に突っ走っていました。目の前の仕事を必死にやれば、必ず報われると信じて働いていたのです。」
一方で、そのような状況下で「このままのやり方で大丈夫なのか」という冷静な意見を出す人もいたものの、大多数の波に飲まれていったそうです。
その後「顧客の嗜好の多様化」「車によるショッピングの常態化」等により事業環境の構造的な変化が訪れたとき、既存戦略の成功モデルを強力に展開して成果を上げてきた組織は、新たなビジョンを描くことが出来ませんでした。
ある環境に適応し過ぎた組織は、環境変化に気づいても、自分たちを変えることができずに、クラッシュするまで突っ走ってしまうのではないか。平尾さんは今、そのように痛感しています。
経営破たんを経験し社会保険労務士の道へ
苦楽をともにした仲間達が会社を去らざるを得なくなり、多くの取引先の経営まで影響を及ぼした体験から、平尾さんの胸には「会社は絶対つぶしたらダメだ。人の人生を狂わせる」との思いが重く刻まれました。
そして、人事や業務改革の推進に携わってきた経験もあったことから、社会保険労務士(社労士)という仕事に自然と向かっていきました。平尾さんは、この仕事への思いを、次のように語ってくれました。
「社労士業務のうち、社会保険労務士法2条1項に規定される、いわゆる1号業務(書類作成業務)と2号業務(提出代行業務)は、いまやコンピュータでかなりの部分が容易になっています。いわゆる3号業務(コンサルティング業務)については、組織内部のドロドロとした葛藤にまで関わろうとする人は意外に少ないのが現状です。
私は、社労士の役割を『組織と人を、より価値あるものにしていく専門家』と捉えています。したがって、価値ある社労士3号業務の姿として、組織の本質を掘り下げた変革のお手伝いをやり続けたいと考えています。」
この話を聞き、平尾さんは前職で、システムや制度だけでは組織と人が機能しない「気持ちの悪さ」を経験したからこそ、制度運用の障壁を一つひとつクリアする仕事を大切に実行されているのではないか、と思いました。
専門家の役割はトリガーを引かせること
このような仕事をする平尾さんのもとには、企業の経営者から、新たな戦略実行や、組織統合による文化融合など、様々な課題が持ち込まれます。そのとき組織には「人がいない」「時間がない」という自明の障害に対する不満や、「うちの風土は新しいものを受け付けない」「トップは判っていない」といった否定的な思い込みなど、様々な混乱が現れるそうです。その中で、問題解決の糸口を掴んだ某金融会社の例をお聞きすることができました。
「その会社では、まず『問題点が何か』を探るために、経営層を集めたミーティングを行いましたが、最初のうちは第三者的な、評論家的な意見しか出されませんでした。
しかし問題を掘り下げる葛藤状態の中で、問題の根本原因について発言する人が現れました。このような発言は、決まって『私は』で始まる一人称なのです。」
その金融会社では、数字が上がらない原因について「若い人に覇気がない」「パートナー会社にインパクトがある施策を出せない」など、様々な現象が列挙されたそうですが、ある社員が突然「俺達自身は、本当に自分の仕事が好きでやっているんだろうか」と語り始めたのだそうです。
「この本質に迫るトリガー(ひきがね)が引かれた途端に、議論は一人称となって急速に深まっていきました。本質を掘り下げ、リスクを張り、具体的な仕組みづくりのための議論に発展していったのです。」
ちなみに、この会社では経営層でしたが、多くの会社では、トリガーを引く方には、20代半ばから30代前半の若い人が多いのだそうです。成功体験に縛られない、言ってみればその業界のアマチュアとしての「柔軟性」がある上に、このような状況を続けていたら自分の今後の長い人生の価値がなくなるという「将来に対する危機感」が特に強いからなのでしょう。
平尾さんは、組織内の議論を、そのような段階に導いていくことこそ、組織変革コンサルタントである自分の仕事と考えています。
また、今後は内部統制の要素の中でも特に基盤をなすといわれる「統制環境」について、全社員が一人称で考えていくための支援をしたいということです。
内部統制の取組みは、表面を取り繕って、実際には従来のやり方の踏襲を許していると、隠れたリスクが一層大きくなります。コンプライアンス経営の社会的要請に臆するのではなく、逆にこれを好機と捉えて自社の変革の契機としたいものです。そのための強い味方に、平尾さんはなってくれるのではないでしょうか。
